星形成領域

星形成領域「Dendrogramの利用」

ここでは作成されたイメージデータをもとにサイエンスを行うための例として、幾つかの典型的な解析を紹介します。

Dendrogram

恒星の誕生は、分子ガスなどの星間物質が集まった分子雲の中の、さらに高密度に集まった塊である分子雲コアで起こることが知られています。 この分子雲コアを同定し、その物理情報 (サイズ・速度線幅・質量等) を知る事は、星を形成する環境を理解する上で重要な情報になります。 そこで、星形成領域の高密度分子雲の観測データをもとに、分子雲コアを同定する試みが様々な方法で行われてきています。 これまで同定アルゴリズムとして様々なものが提案されてきましたが、その一つに Dendrogram アルゴリズムがあります。 ここでは、ALMA で観測されたデータをもとに、Dendrogram の使用例を紹介します。なお、この方法で検出した構造が分子雲コアとみなせるかどうかについては注意深い議論が必要となることに注意してください。

Dendrogramは、多次元のデータセットにおいて階層構造を樹形図 (デンドログラム; dendrogram) として分類するアルゴリズムです。 それぞれの階層の構造は
  • 最も細分化された部分構造を持たない構造をリーフ (leaf)
  • 親構造から細分化さた中間構造をブランチ (branch)
  • 親構造を持たない最も上位の構造をトランク (trunk)
として同定されます (Rosolowsky et al. 2008)。
ここでは最も小さい部分構造を持たないリーフ (leaf) の検出を考えます。

dendrogram schematic tree dendrogram schematic tree

Dendrogram についてのより詳細な情報は "Astronomical Dendrograms in Python" をご覧ください。 以下で紹介するスクリプトでは、こちらで配布されている Python モジュールを使用しています。

サンプルイメージデータ

サンプルとして今回使⽤するデータは、ALMA で観測された以下の星形成領域分子雲における、高密度ガストレーサー H13CO+ J=1-0 分子輝線によるモザイクキューブイメージです。

"NGC6334" 北東領域分子雲:

ALMA Science Archiveより、以下を検索してください。
- Project code: 2018.1.00981.S
- Source Name: Northeast_Section_of_NGC6334
JVOのサイトからも イメージ FITS ALMA01461998_00_00_00.fits を直接ダウンロードできます。

"M17SW" 分子雲:

ALMA Science Archive より、以下を検索してください。
- Project code: 2015.1.01584.S
- Source Name: M17SW
JVOのサイトからも イメージ FITS ALMB00087502_00_00_00.fits を直接ダウンロードできます。
M17SW のデータはかなりサイズが大きいのでご注意下さい。
また、こちらのデータは周波数中心に SiO v=0 J=2-1 分子輝線が検出されていて、静止周波数もその周波数が設定されています。 そのため、周波数方向の切り出しや、静止周波数の設定に関してはご注意ください。

スクリプト

イメージキューブデータを dendrogram に適用するための Python スクリプトです。 以下からダウンロードしてご使用ください。

天体 ファイル
Jupyter Notebook 版スクリプト Northeast of NGC6334 SFR01_dendrogram_NGC6334.ipynb
Jupyter Notebook 版スクリプト M17SW SFR01_dendrogram_M17SW.ipynb

実行環境

Python 3 環境で実行できます (CASA は利用しません)。 Jupyter Notebook 版スクリプトを実行するためには Jupyter Notebook がインストールされている必要があります。 また、Jupyter Notebook 版スクリプトは例えば Google Colaboratory (※) 上で実行する事も可能です。
(tarball でインストールされた CASA 上では一部のモジュールが利用できないため実行できません)。
※ Google Colaboratory (略称: Colab) は、Google の提供するブラウザから Python を記述、実行できるサービスです。 Jupyter Notebook 形式で書かれたスクリプトを読み込み、実行することが出来ます。

実行に必要な Python の追加モジュールは以下になります。御自身の環境で実行する際は、あらかじめインストールしてください。 いずれも pip コマンドなどの Python パッケージ管理ツールでインストール可能です。
  • numpy
  • matplotlib (図描画モジュール)
  • astropy (天文学用モジュール: FITS のハンドリング、座標変換などに利用)
  • astrodendro (dendrogram モジュール)

Google の提供する Google Colaboratory 上でスクリプトを実行するには、
  • Google Colaboratory へアクセス
  • "アップロード" タブに Jupyter Notebook 版スクリプトをドロップ
  • "セル" タブから "全てを実行" を選択すると全体を通して実行される
  • FITS ファイルのアップロードが必要な場合は、左端のフォルダ・アイコンをクリックすると左側にフレームが開き、構成ファイルが表示されます。 ここで左側フレームの上部のアップロード・アイコンをクリックして、ファイルを選択するとファイルがアップロードされます。 一方、ここからファイルを選んで右マウスクリックでダウンロードを選ぶと、作成ファイルをダウンロードする事も出来ます。

スクリプト概略

以下で、Python で書かれた PPV (位置-速度) イメージキューブデータに対して dendrogram を適用するためのスクリプトの概略を紹介します (2D イメージデータには適用できません)。
イメージ FITS の取得から、dendrogram へ適用するためのデータの準備、dendrogram の実行、leaf(分子雲コアの候補)の選択と各パラメーターの決定を行います。 デフォルトの dendrogram の基準に加えて、速度軸方向での selection を行っています。
スクリプト中に「(要確認)」のコメントがあるパラメータは、注意すべきパラメータや、データに応じて変更が必要なパラメータです。 サンプルイメージデータの場合は変更しなくても最後まで実行できますが、別のデータを使用しようとする場合などは修正変更を検討して下さい。 この様なパラメータについては各 Section で説明していますので、確認しながら Section 毎に実行する事を推奨します。

Section 1. モジュール

必要な Python モジュールの読み込みを行っています。
Google Colaboratory 上で実行する場合は、Google Colab 環境かを識別し必要な追加モジュールのインストールも行います。

Section 2. イメージ FITS ファイルをダウンロード

冒頭で紹介したサンプルイメージデータ (イメージ FITS) を JVO からダウンロードします。

Section 3. FITS ファイルの読み込み

ダウンロードしたイメージ FITS を読み込んでヘッダーを確認し、dendrogram で扱いやすい形のイメージ FITS に変換しています。
具体的には、ALMA アーカイブデータのイメージ FITS を dendrogram で扱えるように、4 軸目 (Stokes 軸) を削除したイメージ FITS に置き換えます。 さらに、処理速度向上のために 3 軸目 (周波数軸) について両端のラインのない周波数領域を除外してデータサイズを削減し、同時に周波数を視線速度に変換する等の操作を行っています。
また、ビームサイス (空間分解能) の情報をヘッダーから取得しています。

Section 4. 平均スペクトルの作成

イメージ領域全域で平均したスペクトルを表示します。

Section 5. SNマップ & RMSマップの作成

ノイズの大きさを見積もるために、指定した速度チャンネル範囲で RMS を求め、RMSマップを作成します。 RMS ノイズを測定するチャンネル範囲の指定には注意して下さい。 さらに元のキューブデータと RMS マップから、SN マップも作成されます。
ここでは、平均スペクトルに指定された emission free チャンネルが書き込まれたプロット、RMS のヒストグラム、RMS マップが表示されます。

NGC6334
M17SW

Section 6. モーメント 0 マップの作成

簡易的に全 channel を積分して moment 0マップ (積分強度図) を作成・表示しています。

Section 7-1. dendrogram の実行

dendrogram を実行しています。 dendrogram への適用において「SN マップ」を使用する場合と、「通常のキューブイメージ」を使用する場合を選択できます。
dendrogram における構造同定の閾値等のパラメータはここで指定します。 現在はデモ版として処理時間を短くするために高い値を設定していますが、 実際に研究に使う際は、先行研究で使われているパラメータを参照するなどしてより小さい値に調整して下さい。

Section 7-2. 結果の FITS への出力と FITS のダウンロード

dendrogram の結果を FITS ファイルに出力します。 さらに、この FITS ファイルの extention について、扱いやすいように 2 つの FITS に分割して出力します。
1つ目の extention はオリジナルの FITS を regrid したもので、2 つ目のextention との比較に利用できます。 2つ目の extention は dendrogram で同定された構造の ID 番号をマップ上に示した物で、各 pixel の値が ID 番号に対応しています。

Section 7-3. テーブルを作成するための準備

テーブルを作成するための準備に必要なパラメータの指定を行います。 dendrogram で同定された構造の各パラメータを配列として取り込みます。

Section 7-4. dendrogram が抽出する leafの同定結果を出力

Dendrogram は階層構造を同定しますが、ここでは dendrogram で同定される最小の構造である「leaf」を分子雲コアの候補天体と仮定する事にします。 同定された構造から leafを抽出してリストにして表示します。
この時、イメージ端ではleafの全体を同定できない可能性があり、 また干渉計イメージの場合はイメージ端で RMS が悪化する (primary beam 補正後) といった事から、 イメージの端で同定された leaf を除外します。 このために RMS に対して閾値を設けています。
最後に表示した moment 0マップ上に、dendrogram で同定された leaf の位置を示しています。

NGC6334 M17SW

Section 7-5. 速度方向の閾値の追加 及び ビリアル質量の見積もり

デフォルトの dendrogram の基準では速度方向の連続性の確認が不十分と考えられるので、速度方向の selection を追加で行っています。
また、検出された leaf (コア候補) の pixel を全て平均してスペクトルを作成し、ガウシアンフィットを行い、コア候補のサイズとガウシアンフィットの結果から得られた速度幅の情報を使ってビリアル質量も求めています。 ガウシアンフィットについては初期値が指定されますが、フィットがうまく行かない場合があるので表示されるプロットの結果を見て判断して下さい。 ガウシアンフィットの結果は、各 leaf ごとにスペクトルにして表示されます。
なお、ここの処理はデータによっては非常に時間がかかるので注意!
最終的に同定されたleaf(コアの候補)の各パラメータをリストにして表示すると同時に、csv 形式でテキストに書き出しています。

Section 7-6. コア候補のパラメータプロット例

参考に同定されたleaf(コアの候補)についての 2 つのパラメータ間の関係をプロットしたグラフを表示しています。
なお、実際に同定したコアの候補天体の各パラメータを使う場合は、適切に同定されているか慎重に確認して下さい。また、本当に分子雲コアとみなして良いかについては慎重に議論してください。

NGC6334 M17SW


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Last Update: 2023.06.07