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研究テーマ私の研究テーマは普通の人よりも広いです。ここに書いていないこともやっていたりします。
銀河の形成進化銀河はどのようにして生まれ成長するのか?これは現在の天文学における最も大きな謎の一つです。 とりわけ巨大銀河の形成は不思議で、宇宙の非常に初期の時代から存在し、なぜか星形成活動を 活発に行なっていない「静かな」銀河が多いのです。銀河は時間とともに徐々に成長し、活発に 星を作っているのが普通の姿なのですが、初期宇宙に現れた静かな巨大銀河はその意味で「普通ではない」のです。 そしてそういった銀河は非常に物理的な大きさが 小さいことが知られています。そのような 大質量・コンパクトな天体はどのようにして形成するのでしょうか? そして、なぜ星形成が止まってしまうのでしょうか?これは銀河形成で最も大きな謎の一つです。この謎に挑むため、すばる望遠鏡のMOIRCSやケック望遠鏡のMOSFIRE、更にはJWSTといった望遠鏡・装置を使って、 これらの銀河の形成シナリオを観測的に突き止めようとしています。 そのアプローチとして、最も初期の時代の静かな大質量銀河を勢力的に探査しています。 私たちの研究により、赤方偏移4(120億年前)にはすでにそのような銀河が存在していたことが わかっています (Tanaka et al. 2019, ApJL)。 そういった銀河の大きさをすばるのIRCSを用いた補償光学による観測で測定すると、 驚くべきことにこれらの銀河は非常に小さかったことがわかりました (Kubo, Tanaka et al. ApJ 2018; すばるプレスリリースはこちら)。 天の川銀河の周囲にある球状星団よりも超高密度な銀河です。そしてさらに分光観測を行って、 銀河の力学質量を赤方偏移4.01で初めて測定しました・同様の観測は当時z=2.7が最遠方でしたので、これは非常に大きな進歩です。 驚くべきことに、銀河のコアの質量は現在の宇宙の銀河とそれほど変わらないことがわかりました。 これは全く想像していなかった結果で、こういった巨大銀河の形成の謎を深める結果でした (すばるプレスリリースはこちら)。 その後も分光観測を進め、さらなる遠方の大質量銀河の発見しました (z=4.53; Kakimoto et al. 2024)。 興味深いことにこの銀河は銀河群的な高密度環境にいて、銀河同士の重力相互作用が銀河の星形成を抑制する 引き金になったことを示唆しています。また、より統計的な研究では静かな銀河は非常に小さなスケールの 密度超過が見えています (Ito et al. in prep; 2023年サマーステューデントプログラム)。さらに 赤方偏移4に「静かな」銀河が支配的な銀河団の発見(最遠方銀河団)もしています (Tanaka et al. 2023 submitted)。 最遠方の静かな大質量銀河の環境は、現在非常に面白い研究テーマです。 銀河の星形成が止まってしまう直接的要因により踏み込むため、X線や電波を使って明らかにする研究も 進めています。遠方の「静かな」巨大銀河では、銀河中心に あると思われる超巨大ブラックホールの活動性が上がっていることが明らかになり、ブラックホールが 銀河の成長を止めたのかもしれない、という示唆が得られました (Ito et al. 2022; プレスリリースはこちら)。 AGNフィードバックと呼ばれる、理論から示唆されていた物理機構をサポートするかもしれません。 近年のJWST観測では、静かな銀河に活動的なブラックホールがしばしば見られる傾向があります。 いよいよ本丸が見えてきているのかもしれません。
近傍宇宙論現在広く支持されている、ダークエネルギーが支配的な 冷たい暗黒物質モデルは宇宙の大局的な物質分布を非常によく再現しますが、 より小さなスケールではいくつかの問題が指摘されています。 その一つが"missing satellite"問題です。 局所銀河群(天の川銀河とアンドロメダ銀河がなす銀河群) における矮小銀河の数がモデルが予測する数よりもずっと小さいという問題で、近年では バリオンと言われる普通の物質の物理を考慮することで解決できると考えられていますが(初期の モデルでは暗黒物質しか考えていなかった)、根本的問題はこの問題が局所銀河群でしか テストされていないということです。局所銀河群は宇宙の中で典型的な系でしょうか? そうではない、という観測結果が多く報告されています。何よりも宇宙論的問題は必ず統計的に調べないといけません。 そこで、HSCを用いて局所銀河群の外の近傍の銀河を観測するプロジェクトを始め、 初期観測は非常にうまくいきました (Tanaka et al. 2018, ApJ)。より多くの銀河を観測して数を増やし、データ解析を進めたところ、矮小銀河の数は天の川銀河と 整合的であることがわかりました。しかし、その空間分布は大きく異なり、天の川銀河では 矮小銀河が異様に中心付近に多く存在しており、他の銀河や数値流体シミュレーションではそのような 傾向は見られませんでした (Nashimoto, Tanaka, et al. 2022 ApJ)。これは "missing satellite"問題を1段階深めた形で、さらなる観測が求められています。
市民天文学HSCによる広くて深いデータは 銀河の潮汐ストリームを検出するのにも適しています。これは銀河同士の相互作用のサインで、 銀河の衝突・合体による成長を調べるいい手段となります。銀河は宇宙の歴史の中で合体を繰り返して 成長してきたと考えられていて、衝突・合体は銀河の成長を語る上で無くてはならないものなのです。しかし、衝突・合体銀河を探すのは大変です。銀河は数え切れないほど存在するからです。 そこで、一般の方々に衝突合体をしている銀河を探してもらう、日本第一号の「市民天文学」 プロジェクトを推進しています(天文台プレスリリースはこちら)。 多くの方々から分類をしてもらい、非常に面白い科学 結果が出てきました。実に近傍銀河の4つに1つが衝突・合体の兆候を示し、それらで有意に 星形成とブラックホール活動性が上がっていることがわかりました (Tanaka et al. 2023 PASJ; プレスリリースはこちら)。 一般市民の方々の分類はとても すばらしいもので、暗い銀河に着目した「GALAXY CRUISE season 2」も進行中です (天文台プレスリリースはこちら)。 一般市民の精度の良い分類と面白い科学結果は、どちらもHSCの画像クオリティによるものです。 以下に、今までの研究でしばしば使われてきた画像と、HSC画像を示します。どちらがHSCか、一目瞭然ですよね。 この活動は半分アウトリーチ活動のようなもので、ありがたいことに多くのメディアで 取り上げられてもらっています。NHKでも紹介されましたし、令和3年度の「科学技術分野の文部科学大臣賞」をいただいたりもしました (天文台プレスリリースはこちら)。 興味のある方は是非お手伝いいただけると幸いです。
測光的赤方偏移と銀河のSED進化銀河までの距離を測定する基本的な手法は分光観測をすることです。 しかしながら、分光観測は非常に時間のかかる観測で、多くの銀河に対して距離を測定することは 困難です。 測光的赤方偏移とはよりお手軽に測光データ(明るさや色など)だけを使って距離を 推定する方法で、近年の大規模サーベイでは必要不可欠のツールとなっています。 大きく分けてテンプレートフィッティングと機械学習の二つの手法があります。 二つとも興味はありますが、現在は主に前者で精度の向上を目指しています。 ベイズ事前確率を星形成率などの銀河の物理量に対して用いて、テンプレートを実質的に 赤方偏移進化させることで精度が上がります。 赤方偏移と同時に銀河の物理量も整合的に 見積もることができるという特徴もあります。 このコードは現在進行中のHSCサーベイで 広く用いられていますし、上の巨大銀河の形成の研究でも使われています。
そして、この研究の発展形として銀河の「スペクトル」が時代とともにどのように変化を したかを、観測的に明らかにしようとしています。そして、そこから銀河の物理的な性質を 紐解こうとしています。スペクトルは光の強度を波長の関数として見たものですが、これは 銀河の中の星種族を如実に表していて、銀河の「成長=(星形成史)」を調べる上でとても本質的です。 超高精度の測光的赤方偏移で様々な距離にある銀河を一網打尽にし、そのスペクトル進化が 見えてきました。 そして、そこから推測した銀河の星形成の歴史はとても、とてもおもしろく、 論文を準備中です (Sugimori, Tanaka in prep)。
データ解析パイプラインHSCとPFSのデータは非常に大きなデータとなります。例えば、最近のHSCの内部データリリースでは トータルのデータ量が500TB以上あります。 データを効率よく整約(サイエンスができるように生データを処理する) する解析パイプラインが必要不可欠で、業務の一環としてHSCとPFSのパイプライン開発を行なっています。 私は星を使って装置の校正をするのが得意ですが (Doi, Tanaka, et al. AJ, 2010, 139, 1628)、 自分のサイエンスで役に立つアルゴリズムの開発もしています。この業務のおかげで、HSCのデータ、そして 今後はPFSのデータに誰よりも詳しくなると思います。 学生の皆さんはうまく私を利用してください。
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