日本語の「台風」と英語の「typhoon」はどちらが先にできた言葉か



 NHKラジオ第2の「英語5分間トレーニング」の2010年8月号のテキスト p.64 (2010年8月27日放送分) に
> 日本語がそのまま使われている自然災害 (natural disasters) といえば…。tsunami「津波」、typhoon「台風」である。
とあった.「tsunami」が日本語の「津波」から英語に入ったというのは, 大抵の英語の辞書にもそう書いてあり,疑いがないが,「typhoon」が日本語の 「台風」から英語に入ったというのは,本当だろうか.

 朝日新聞2010年9月18日夕刊の beスタディー「漢字んな話」 (桑田真, 監修・笹原宏之早稲田大学教授) には「明治時代に英語の『タイフーン』に 『颱風』って漢字を当てたらしいんだ。その後、颱を略して台と書くよう になったんだな。」とあった.「typhoon」が先でそれから日本語の「台風」 という言葉ができたという説で,テキストの説明とは全く逆である. 集英社文庫 (池上彰) 「これが週間こどもニュースだ」にも「台風と いう語は英語の typhoon を音訳したものであるため発音が似ている」 という主旨のことが書かれている.一方,英語の「typhoon」は中国から 入ったという説が有力のようだ.たとえば,研究社「新英和大辞典」 第六版 (2002年) などに,英語の typhoon は中国語広東方言の tai fung (大風) から借入した語である,と書いてある.語源由来辞典
http://gogen-allguide.com/ta/typhoon.html
や Yahoo!百科事典
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%8F%B0%E9%A2%A8/
の「台風の語源」にも同様の説明がある.後者には,さらに,「台風」の基に なる「颱風」が明治時代にできた言葉であるのに対して,英語の「typhoon」は 16世紀にイギリスで使用例があると書いてある.

 以上のように,英語の「typhoon」から日本語の「台風」が派生したと いうのが正しい.NHK出版の語学編集部の『英語5分間トレーニング』担当者も, 以上の私の指摘に対して,テキストの記述は不適切であったと認めた.

(NHK出版の担当者には,以上の件を私のホームページで公開するということを ご承知いただいている.)

相馬 充 (国立天文台)

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