2011年3月のTBSテレビによる「スーパームーン」報道
TBSテレビで2011年3月20日に次の報道がなされ,TBSのウェブサイトや Yahoo!ニュースなどにも引用されました:
「20日未明、月と地球の距離が19年ぶりに最も接近し、 東京都内でも明るく大きな月を見ることができました。
月と地球の接近は「スーパームーン」とも呼ばれますが、 今回はおよそ35万6500キロメートルと、1992年以来 19年ぶりに最も接近した距離となりました。」
これに関しては一般の方から私に,「この報道は本当なのか」と 問い合わせがありましたので,これについて,ここで解説しておきます.
上記の報道には少なくとも2つの間違いがあります. 以下の説明では,月までの距離は地球中心から月の中心までの距離,時刻は日本時です.
2011年3月20日の満月と最接近の時刻とそのときの月までの距離は
2011年 3月20日 03:10 満月 356,577 km
2011年 3月20日 04:09 最接近 356,575 km
です.満月の時刻に月までの距離がこれより近くなるのは,これより前では
1993年 3月 8日 18:46 満月 356,531 km
1993年 3月 8日 17:34 最接近 356,528 km
でしたから,満月の瞬間に月までの距離がこれほど近かったのは 「19年ぶり」ではなく「18年ぶり」です.ただし,上の報道では 「満月(天文学的な)」とは限っていません.となると
2008年12月13日 01:37 満月 356,611 km
2008年12月13日 06:39 最接近 356,566 km
があり,この最接近が2011年3月より近いもので,したがって2年3カ月ぶりと いうことになります.このとき,満月の時点では2011年3月より確かに遠いのですが, この日4:22には2011年3月の最接近距離の356,575 kmより近くなっていました. この時点は満月から3時間も経っていませんから,見た限りでは満月と変わるところが なかったはずです.
以上は天文学的な満月 (月と太陽の黄経差が180°になるとき) を基準にしていますが, 同じ満月でも,月がいつも太陽の正反対にあるというわけではありません.これは月の 軌道面が地球の軌道面に対して約5°の傾きを持っているためです.月が太陽の正反対に 近いほど真丸に近く光って見えることになります.ただし,本当に正反対にあったら 月食になってしまいます.上記の満月の日時における月と太陽との離角を示すと 次のようになります.2008年12月については,最接近の時刻についても示します. 離角は地心 (地球中心) から見た場合と東京から見た場合の値を示しておきます.
2011年 3月20日 03:10 地心で175.00° 東京で174.14°
1993年 3月 8日 18:46 地心で175.00° 東京で174.67°
2008年12月13日 01:37 地心で176.11° 東京で176.26°
2008年12月13日 06:39 地心で175.24° 東京で176.21°
これから分かるように,2008年12月の最接近時には,地心でも東京でも 1993年3月や2011年3月の満月時より離角が大きいので,それらの満月時よりも, より丸く光っていたことになります.
以上のことから,2011年3月の満月のときの最接近は2年3カ月ぶりというのが 適切なところだと言えるでしょう.
なお,満月前後以外では2011年3月より近いものとして
2005年 1月10日 19:07 最接近 356,569 km
もありました.これは新月の2時間前になります (21:03 新月 356,577 km).
上に出てきた最接近の日時が満月や新月の日時にかなり近くなっていますが, これは偶然ではなく,月の運動に太陽の引力の効果が大きく現れるためです.
TBSによってこの報道がなされたのは,東日本大震災 (2011年3月11日発生) により 関東地方で計画停電が実施されているころで,私が普段使っている 国立天文台天文データセンターの計算機が使用できず,急きょ私のパソコンで プログラムを動かすように設定して計算し,上記の事実が判明したものです. TBSテレビに対しては,すぐに上記の事実をTBSテレビのウェブサイトに書きこんで お知らせしました.
相馬 充 (国立天文台)
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