オーストラリア人は mate を might と同じに発音するという誤解



 NHKラジオ英会話のテキストの 2009年11月24日のページ (p.81) に
> mate [豪]友達 (呼びかけに使われる。発音は might と同じ)
と書いてあった.これは,オーストラリアでは mate を might と同じに 発音する,と読める.しかし,これは間違いである.

 英語で我々が「エイ」と発音すると思っている単語を, オーストラリア人が発音するのを聞くと,多くの場合,確かに「アイ」と 聞こえる.mate は might のように,today は to die のようにである. そのため,日本人の中には,オーストラリア人は mate を might と, today を to die と同じに発音すると誤解している人がかなりいるようだ.しかし, 実際は,オーストラリア人も mate と might,today と to die は区別して 発音している.でなければ,アルファベットの A と I が区別できなくなり, 困ってしまうだろう.

 念のために,オーストラリアの知人に, 「オーストラリアでは mate を might と,today を to die と同じに発音する という人がいるが本当か?」 と尋ねたところ, 「オーストラリア人以外の人の中にはそう思っている人がいるが, オーストラリア人も当然,それらは区別して発音しているよ.」という答えが 返ってきた (もちろんやりとりは英語でした).

 2010年11月には国立天文台の私の研究室にオーストラリアの天文学研究者を 招く機会ができたので,かれに mate と might を丁寧に発音していただいた. 当然のことながら,mate と might の発音は異なっていた.mate を単独で聞くと 確かに「マイト」のように聞こえるが,might と聞き比べたところ,might は はっきりと「マイト」のように聞こえるが,mate のほうは「マイト」と「メイト」 の中間のような音に聞こえたのである.

 オーストラリア人の発音を聞くことができるサイトがある.
http://www.fonetiks.org/engsou3au.html
このサイトでオーストラリア人の face と fine の発音を聞いて,両者の母音の 違いを聴き比べていただきたい. 聴き比べる能力がないと,異なることは理解できないかもしれない.そこで, そのような方は
http://en.wikipedia.org/wiki/IPA_chart_for_English_dialects
こちらを見てほしい.これは各国の英語の発音を IPA (International Phonetic Alphabet,国際音声記号) で表したものだ. オーストラリア英語の欄 (AuE) で date, pain などの母音と my, wise などの母音の音声記号が違っている.これがオーストラリアでも 両者の母音が区別して発音されている明確な証拠である.

 NHK出版の語学編集部「ラジオ英会話」の担当者には上に説明したテキストの記述の 間違いを2009年11月29日に指摘した.NHK出版では,このような問い合わせに, いちいち回答しない方針だそうで,1年近く回答は来なかったが, 別の件で接点が生じ,「講師に確認するのに時間が掛かっていた」という言い訳の 後の2010年10月12日になって, 『このインタビューの出演者である Chris Grundy さんは生粋の オーストラリア人で、やはりインタビューの中で mate を might のように発音していました。』 という,完全に的の外れた返事が返ってきたのには驚いた.

(NHK出版の担当者には,以上の件を私のホームページで公開するということを ご承知いただいている.また,NHKラジオ英会話講師の遠山顕先生のホームページに ある「遠山顕へのメッセージ」として掲載されているメールアドレスにも この件をお知らせしてある.なお,「NHKラジオ英会話」テキスト2010年11月号にも 誤りがあり,2010年11月17日に ここに示した指摘 をしたことを付け加えておく.)

 1996年に,オーストラリアの Tabur が発見した彗星の名前を仮名書きする際, 国立天文台・天文ニュースで混乱したことがある. 国立天文台・天文ニュース(50) (1996年8月22日) で「テイバー」としていたのに,同(52) (1996年8月29日) で「タブル」だと修正しながら,同(114) (1997年7月10日) で理由がないまま「テイバー」に戻り,同(366) (2000年8月1日) でどういう訳かさらに「タイバー」になり,その後は同(660) (2003年7月24日) にもあるように「タイバー」になったままのようだ.オーストラリアでも Tabur と Tiber は発音が異なると いうことを考えれば,Tabur は「テイバー」のままでよかったということになるのではないだろうか.

相馬 充 (国立天文台)

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