研究のインパクトと今後の展望

   これまでは電波吸収の為に、ブラックホールの位置を正確に知る手段がありませんでした。いくつかの天体では、見かけのジェットの根元から遥か遠く奥深く(ブラックホール直径の1万倍から100万倍遠方)に埋もれているのでは?という憶測もなされていました。そのため、高い解像度を誇るVLBIをもってしてもブラックホール極周辺(ブラックホール直径の約10倍以内の領域)に迫ることは難しいかもしれないと考えられてきました。

本研究では、おとめ座Aのジェット噴出口に潜む巨大ブラックホールの位置を観測史上初めて正確に突き止めることに成功しました。その結果、43GHzで観測されるジェットの根元は、ブラックホールの居場所に極めて近いところ(ブラックホール直径の7倍程度)にまで肉薄していることが明らかになりました。

つまり、あともう少しだけ高い周波数(更に高い透過率と解像度)でVLBI観測しさえすれば、吸収の壁をほぼ完全に克服してブラックホールまで直接見通すことが可能であるということを示しています。本成果は、現代科学の究極の目標の1つである「ブラックホールの直接撮像」を目の前にたぐり寄せるという、とても大きな一歩を踏み出したのです。

今回のVLBI観測は2GHz(波長18センチメートル)から43GHz(波長0.7センチメートル)のいわゆる「センチ波」での電波観測でした。一方、「サブミリ波」と呼ばれる波長約1ミリメートル以下の電波帯で活躍する電波望遠鏡が世界各地に存在しています。現在、これら世界中のサブミリ波望遠鏡を結びつけることでサブミリ波VLBI観測網を構築するプロジェクトが世界中のVLBI天文学者の協力のもと進められています。今回突き止めたおとめ座Aのブラックホールの居場所をサブミリ波VLBI観測することで、文字通り「黒い穴」を写真におさめることができる日もそう遠くないかもしれません。