超巨大ブラックホールは何処に?
噴出ガス源流の隠れ家を突き止める


想像図
画像クレジット:国立天文台/AND You Inc.

研究の概要

   総合研究大学院大学/国立天文台の秦和弘氏が率いる研究チームは、地球から約5440万光年彼方にあるおとめ座A(M87)銀河に潜む超巨大ブラックホールの位置を、電波観測により、正確に突き止めることに世界で初めて成功しました。本結果は、現代科学の究極の目標の1つである「ブラックホールの直接撮像」の達成に向けて大きな一歩を踏み出したことを意味しています。

銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在し、莫大なエネルギーを宇宙空間へと運ぶプラズマの流れ「ジェット」を噴出していることが知られています。 ジェットの噴出口に潜む超巨大ブラックホールの位置は、「ブラックホールの直接撮像」の達成のためには必要不可欠な情報です。ところがジェットの噴出口の付近では電波が吸収されるため、これまではブラックホールの居場所を正確に突きとめる手段がありませんでした。

研究チームは今回、位置精度を極限まで高めた「多周波相対VLBI」という革新的な観測手法を駆使し、おとめ座Aのジェットの源流に潜む超巨大ブラックホールの居場所を約20マイクロ秒角(1度角の1億8千万分の1)というかつてない精度で決定することに成功しました。 これはブラックホール直径のわずか2倍に相当します。 その結果、ブラックホールの位置は観測されたジェットの根元から、ブラックホール直径のわずか7倍程度(0.02光年)に迫っていることがわかりました。

本研究成果は2011年9月8日発行の英国の科学雑誌『ネイチャー』に掲載されました。



図1:(左上段左)おとめ座A方向の可視光画像。 (左上段右)ハッブル宇宙望遠鏡によるおとめ座A中心核の可視光画像。 (左中段、左下)研究チームがVLBI (超長基線電波干渉計)を用いて観測した中心核領域の高分解能電波画像。 (右、想像図)研究チームが今回突き止めた巨大ブラックホールの居場所。噴出ガス(ジェット)による遮蔽の影響を克服する観測手法を用いることより、約20マイクロ秒角(ブラックホール直径の僅か2倍)というかつてない精度で位置を決定しました。更に、その位置は43GHz電波で観測されるジェット根元から、僅かブラックホール直径の7倍程度(0.02光年)しか離れていないことが明らかになりました。(画像クレジット:(左上段左)Sloan Digital Sky Suvey, (左上段右) NASA and the Hubble Heritage Team, (右)国立天文台/AND You Inc.)

記者会見

日時:2011年9月5日 14時00分〜15時00分
解禁日:2011年9月8日 午前2時(日本時間)
場所:国立天文台三鷹キャンパス・W1 すばる棟 大セミナー室
出席者:
秦 和弘(はだ かずひろ) 総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻・博士課程3年/国立天文台水沢VLBI観測所
土居 明広(どい あきひろ) 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所・助教/総合研究大学院大学
紀 基樹(きの もとき)  国立天文台水沢VLBI観測所・研究員
萩原 喜昭(はぎわら よしあき) 国立天文台水沢VLBI観測所・助教/総合研究大学院大学
川口 則幸(かわぐち のりゆき) 国立天文台水沢VLBI観測所・教授/総合研究大学院大学

記者会見配布資料、画像、動画資料


研究チームの構成

秦 和弘(はだ かずひろ) 総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻・博士課程3年/国立天文台水沢VLBI観測所
土居 明広(どい あきひろ) 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所・助教/総合研究大学院大学
紀 基樹(きの もとき)  国立天文台水沢VLBI観測所・研究員
永井 洋(ながい ひろし) 国立天文台ALMA推進室・研究員
萩原 喜昭(はぎわら よしあき) 国立天文台水沢VLBI観測所・助教/総合研究大学院大学
川口 則幸(かわぐち のりゆき) 国立天文台水沢VLBI観測所・教授/総合研究大学院大学


    1. 研究の背景

    2. 革新的手法:多周波相対VLBI観測

    3. 観測結果

    4. 研究のインパクトと今後の展望